Ne me quitte pas 「行かないで」ジャック・ブレルー「エモい」ってもしかして、こういうこと?
この曲を初めて聴いたのは、フランス語の否定命令形を覚えるのにいいよ、と勧めてくれた人がいたからです。でも、聞いてびっくり、なんじゃこの歌は、と思ったのでちょっと記事にしておきましょう。
Ne me quitte pas 「行かないで」は、ジャック・ブレルの代表作、1959年に発表されました。
ネットで調べると、曲のタイトルは「行かないで」という意味で訳されていることが多いですが、日本語的には「捨てないで」の方が合っているように思います。
Ne me quitte pas - Jacques Brel - French and English subtitles.mp4
ジャック・ブレル(Jacques Brel)について
1929年ベルギー生まれ、フランスで成功したシンガーソングライターであり、俳優、映画監督としての面もありました。甘いマスクとあふれる才能で、さぞかし女性にモテたことだと思います。
でも、この歌の中では、ある女性に対して「行かないで」「捨てないで」と許しを請う姿があります。女性の愛情を取り戻すために、美しい言葉を並べたて、ありったけの条件を挙げる男性の姿。
「Ne me quitte pas(捨てないで)」と追いすがる男
タイトル「Ne me quitte pas」は、フランス語否定の命令形で、「行かないで」という意味です。
実はこの曲は、当時彼の愛人だったスザンヌ・ガブリエロ(フランス人女優、歌手)と別れた後に作られたといわれています。彼女はブレルの子供を身ごもっていたにもかかわらず、認知してもらえなかったために、中絶しました。
―――いやいや、それは、あかんでしょ。普通、怒りますよね、笑。
歌の中で彼は、許してもらえるなら、
Je ferai un domaine
「僕は王国を作る」
と語り掛けます。そして、その王国では「Où l’amour sera roi」愛が王になり、「Où l’amour sera loi」愛が法律になり、「Où tu seras reine」そして君が女王になる…、と。別れの原因はどうであれ、美しい歌詞です。
ちなみに、不規則動詞êtreの単純未来形sera/serasが使われていて、ここ、フランス語の文法勉強ポイントです。
49歳でこの世を去った才能
「行かないで」と元恋人に泣きすがる男性というと、ちょっとみっともない絵だと思われるかもしれません。
でも、この歌にちりばめられた言葉はとてもシンプルでありながら、やっぱり魅力的だと思います。
僕は君の影の影になりたい
僕は君の手の影になりたい
僕は君の犬の影になりたい
―――うーん、飼っているペットの犬の影か…
なかなか自虐的とも受け取れる歌詞ですが、彼の歌の中では美しく響くのが不思議ですね。つい、何度も聞いてしまいます。
正直、この曲以外の彼の曲を私は知りません。
ジャック・ブレルは、麻薬中毒者やアルコール中毒者、売春婦などをモチーフとした歌も書いているそうです。彼自身は、喫煙者であり、肺がんを患っていました。そして、残念なことに、49歳という若さで肺がんによりこの世を去ります。
本人曰く、ラブソングではないらしい
この記事を書くにあたって、ネットで調べると、ウィキペディアには次のような解説がありました。
1966年のインタビューで、ブレルは「行かないで」について、「恋歌」ではなく、「男性の臆病さへ向けた賛美歌 (un hymne à la lâcheté des hommes)」であると述べ、恋人たちが互いを傷つけあいたいと望む度合いについて歌っているとしている。
「男性の臆病さへ向けた賛美歌」って、私はよく分からないんですけど、みなさん共感できますか? 男性の方が理解できるのかな。
でも、好きなのです、この歌。何回も聴いてしまうんですよね。
やはりそれは彼の才能なのでしょう。
フランス語学習にもおすすめしたい「エモい」歌?
「捨てないで」と男性(私の恋愛対象は男性なので)に追いかけられるのは、私の好みではありませんが、・・・ふと、これってもしかして、最近若い人が使うという「エモい」歌になるのでしょうか??
ボキャブラリが難しくなく、歌詞もはっきりとしていてゆっくり聞けるので、フランス語の学習素材としてもおすすめです。
この曲のおかげで「Ne me quitte pas」というフランス語のフレーズは忘れそうにありません。現実世界で使うのはちょっと切ないですのが。
ぜひ、一度聞いてみてください。けっこう、はまるかも…。