もう二度と薄氷の上は歩かない
南国から来た私は冬のスポーツが苦手です。スケート、スキー、スノーボードとか、特に滑る系は単にずっこけるだけだから挑戦する気もないという感じで。滑る系でなんとかなるのは、唯一、そり滑り、 (誰でもできる、笑)。
でも体を動かさないと運動不足になるので、よく雪山をスノーシューイングします。
田舎の家にはすぐ裏手に山があって、複数の池もあります。冬になると雪ですっぽり覆われるため、夏の草木が生い茂る山道と違って視界が良好になり、スノーシューイングのルートとしては、なかなか理想的なコンディションになるのです。
いくつかある池は、冬は厚い氷におおわれて、犬も喜んで駆け回るお散歩スポットです。
この土地で育った隣人の T は、毎年この池の上をスキードゥで乗り回していて、私の2倍はありそうな巨体で「あの池は、最低でも1.5mの氷が張るから、ぜったい問題ねぇ!」とガハハッと笑うのでした。
そうはいわれても、私の夫は心配性なので氷の張った池の上を歩く時は慎重です。2年ほど前、スノーシューイングに行った帰り、近所の大型犬の足跡が点々とついているその池の上を歩いて家に帰ろうということになりました。
「大丈夫だよ、1.5m凍ってるって言ってたじゃん」と暗示をかけつつ、ザックザックと池を歩いて渡っていきました。池の岸数からメートルほど手前に来た時、夫がふと足を止めました。
私にも立ち止まるように指示を出し、彼は耳を澄ませると「…変だな、水の音が聞こえる」
と、ギクッとするようなことを言うじゃないですか。
「えっ」と、私も耳を集中させてみたところ、確かにチョロチョロと水が流れているような音が聞こえます。
彼が自分の足元の雪をそっとかき分け、露出した氷をチラッと見たとき、「ミシッ」と不吉な音が…
「Run(走れ)!」
と、彼は叫びました。
(いやいや、いきなり走れといわれても、無理でしょ!)
と心の中でボヤキつつ、走ろうとした私は、どうなったと思います?
・・・いやー。お約束通り、コケましたね。その場に、ベチャッと。
スノーシューズって走りにくいんですよ。
えーん、と泣きそうになった私を、彼が少々引きずって起こし、コートについた雪を払ってくれました。
幸いにも、私がコケて氷にかかる圧力が分散されたせいか、かろうじて氷が割れてしまうことはなく、寒中水泳という最悪の結果にはならなかったのです。
後日、その話を T にしたら、
「あの池にはビーバーが住んでっから、岸に近いところは、あいつらのダムのせいで氷がもろくなってんだ。だから、岸の近くはあまり長居しちゃダメだぜ」と。
それを、早く言え。