ベラルーシ、ミンスクの旧ソ連風ホテルにて
丑三つ時に目が覚めた。いや、もっと前から起きていたのかもしれない。寝室の片隅で誰かがいる気配がして目を開けた。
すると、ベッドの足元にフードをかぶった男が立っている。暗い部屋で顔はよく見えないが、向こうもこっちに気が付いた。思わず声を上げそうになったそのとき、男は砂が散り散りになるようにすぅっと消えて、いなくなってしまった。
私の悲鳴で夫は飛び起きた。悪夢を見たと思ったのだろう、ぎゅっと抱きしめて「大丈夫だよ」と寝言のようにつぶやいた。
私はいったん閉じてしまった目を開くのが怖くて、でもそのまま眠ることは不可能だった。
ほとんど睡眠できないまま迎えた朝、彼に昨夜のことを話した。
「昨日の夜中、誰かが部屋にいた」
「えっ、本当に?! 財布の中身、確認しなくちゃ」
「そうじゃない、人間じゃなかったの」
「なんだい、君は、幽霊でも見たっていうのかい?」
「・・・」
夢だったんじゃない、というニュアンスが分かった。
私も夢だったのかもしれないと思う。でも、どっちでもいいとも思った。どうせ、いつか創作のネタにするんだから…。